流れは止まらない──グローバル・サプライチェーン以後の50年を構える

ミクロとマクロの共鳴空間で生きるというスキル


序──2025年という構えの地点

2025年。私たちは、ある分岐点に立っている。

グローバル・サプライチェーン(GSC)は、1990年代以降に可視化されたグローバル経済の骨格であり、モノ・人・情報・金が国境を越えて滑らかに循環する構造として長らく機能してきた。しかしそれは、冷戦の終結、IT革命、物流技術の進歩、そして東アジアの地道な国家建設といった、100年におよぶ積層の上に成立した構造的成果に他ならなかった。

いま、その流れが新たなかたちに向かって動き出している。
そして、この変化は、止められない。


明治維新からグローバル・サプライチェーンへ

思えば、日本という存在そのものが、アジアにおける“構造変化の先駆”であった。1868年の明治維新。西洋近代との接触に対し、日本は模倣ではなく、構えとして応答した。西洋の制度・技術・軍事・教育を吸収しながらも、それを自国の身体に馴染ませるというかたちで内化した。

この経験は、後の東アジア・東南アジア諸国にとっても象徴となった。日本が戦後復興を経て、経済大国としてGSCの原型を築いたとき、台湾・韓国・中国・ASEAN諸国もまた、それぞれの土壌で工業化と制度構築を重ねていた。**GSCは、彼らの地道な努力が結び合って開花した“アジアの結晶”**でもあった。


米国がNo.1を望んでも、「場」の力は止められない

今日、米国は再び世界の中心に立とうとしている。自国回帰、サプライチェーンの再構築、同盟国の再編成。しかし、この流れは、もはや「ひとつの力」では制御しきれない。GSCが成立したように、構造的な地層の動きこそが、時代を形作るのだ。

覇権よりも「結び目」が力を持つ時代。信頼と関係性によって、構造が動き始めている。


ミクロとマクロの共鳴──いま起きている構造変化

かつて、社会は「ミクロからマクロへ」と順を追って変化していくと考えられていた。地域の努力が、やがて国家を変え、世界へと届くという発想。しかしいま、そうした階層構造は崩れつつある。

テクノロジーの進歩によって、個人の行動が地球規模の構造と直接つながる時代が到来した。

個人が発信した小さな声が、国家の方針を揺るがす。
地方の中小企業の技術が、世界中のサプライチェーンを変える。
ローカルで起きた環境危機が、国際政治のアジェンダを動かす。

このように、ミクロとマクロは、E2E(End to End)で共鳴する関係に入っている
この変化は、「規模」や「効率」ではなく、「結びつき」と「振動」によって世界が動いていることを示している。


グローバル人材に本当に必要なスキルとは何か

こうした構造変化の中で、私たちは「グローバル人材」という言葉を、もう一度定義し直す必要がある。

それは、英語が話せる人でも、世界中を飛び回れる人でもない。
世界と共鳴できる“構え”を持ち、ミクロとマクロを同時に感じとる知性──これが、これからの時代に求められるスキルだ。

小さな現場から、グローバルな構造を捉える。
大きな物語から、自分の小さな手の中の一手を読み取る。
そして、自らの“場”を信じて、世界へと開いていくこと。


結び──次の50年を構えるということ

グローバル・サプライチェーンが可視化されたのが1990年代。
それから約35年が経ち、構造は再び音を立てて動き始めている。
いま立っているこの地点は、次の50年の起点かもしれない。

だからこそ、私たちは問うべきだ。
何を信じ、どのように構え、この変化の中に立つか。

流れは止まらない。
だが、構えを持てば、その流れと共に歩むことはできる。

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