国家プロジェクトに依存しない企業の生き残り──Rapidusをめぐる対話から

序章|構造への違和感から始まる思考

Rapidus──2nmの先端半導体を日本国内で製造しようとする国家プロジェクト。その存在は、技術、資本、政策の集大成として日本再興の象徴のように語られることもある。しかし、私たちが今日の対話で繰り返し確認したのは、「その成否は、この国の産業の持続性にとって決定的ではない」という感覚だった。

むしろRapidusという装置を通して浮かび上がってくるのは、国家プロジェクトという構造の限界、そしてその周縁で静かに立ち上がるかもしれない新しい産業構造の兆しである。


経産省モデルの限界と構造の硬直性

日本では過去にも、通産省/経産省主導で数多くの技術プロジェクトが推進されてきた。だが、成功例は極めて少ない。その共通点は、合意形成の重視、スピード感の欠如、顧客の不在、そして何より「失敗しても誰も責任を取らない構造」にある。

Rapidusもまた、その延長線上にあるように見える。人材は流動化するのではなく囲い込まれ、技術は生み出すのではなく導入され、エコシステムは構築されるよりも模倣されている──そうした兆候を前に、私たちは過度な楽観を戒める必要がある。


成功が示してしまう“別の地政学的リスク”

だが一方で、仮にRapidusが商業的に一定の成果を収め、5年以内に先端チップの量産に成功したとすれば、それはまったく別の戦略的インパクトを世界に与えることになる。それはすなわち:

資金・技術・人材を国家が結集すれば、半導体産業は後発でも立ち上げ可能であることの証明になる。

この“証明”は、インドやASEAN諸国、中東の産油国など、国家主導で産業基盤を再構築しようとしているプレイヤーにとって、極めて強い動機付けとなるだろう。つまりRapidusの成功は、日本の再興というよりも、“半導体製造の地理的前提”を破壊する地政学的イベントになりうる。

そしてそのとき、日本はその次の戦略的位置づけ──標準化、知財、設計主導、応用実装などの領域に軸足を移せているかどうかが問われる。


中小企業は“構造の反射”を読み取れ

中小企業にとって、Rapidusの成否は本質的にはどうでもいい。ただし、そこから生まれる制度のゆがみ、資金の流れ、人材の再配置、構造的空白──それらにこそ、戦略的チャンスがある。

  • 人材流動の動きから“逆張り”の人材確保を
  • 製造の外注化の波を受けた試作・検査・後工程への横展開
  • 地方分散・物流拠点の再構成による新たなサプライネットの接点

企業は国家プロジェクトに依存するのではなく、その“反射現象”を冷静に読み取り、自らの構えを調整する者こそが生き残る


結語|幻想ではなく、構造を読む

国家プロジェクトは時に「希望」に見える。しかし、幻想に踊らされるのではなく、その周辺で起きる構造的変化に目を凝らす者だけが、次の時代を生き抜くことができる。

Rapidusは国家の未来ではない。Rapidusを読む視点こそが、私たちの産業の未来を決める。

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