かつて、半導体業界は“シリコンサイクル”というリズムの中にあった。
需要が膨らみ、供給が追いつき、やがて飽和して沈む──この波を読むことが経営の技だった。
だが今、目の前に広がる風景は違う。
AI、EV、先端ノードなど、一部の分野は加熱しているが、SiCや成熟市場のように成長が鈍化している領域も多い。
波は“まだら”で、地図も古く、かつての経験則が通用しない。これは中小企業にとって、試練とチャンスが交錯する時代の到来である。
私たちは、どこに登るかよりも、どこで動かずに待つかを考えねばならない。
そして、風向きが変わったその瞬間、一気に踏み出せるかが、生き残りの分水嶺となる。
この時代、中小企業が取るべき構えは、まさに「冬山遭難モデル」である。
資金も人材も限られるなか、大きな投資はしない。だが、絶対に五感を鈍らせない。
協働ロボットのような省力化は地道に進めつつ、
次の市場の兆し──それも新聞やニュースではなく、“空気の変化”として現れる兆し──を感じ取る必要がある。
それは、組織の誰もが持てる感覚ではない。現場の一部の“野生のアンテナ”を持つ人間に託される力である。
だからこそ、必要なのは知恵と覚悟だ。
誰もが動かないときに、あえて動く判断を下す、孤独な決断力。
そして、正解ではなく、“意味のある行動”を選ぶ力。
「中小企業には余裕がない」とよく言われる。だがそれは、動きすぎるから体力を失うのではないか。
今、本当に必要なのは、“構え”であり、“耳を澄ます力”なのではないか。
山を制するのは、体力ではない。風の音に気づける者だ。