移動の尊厳から始まる共創──Mobility for Humanity設立イベントを終えて

2025年6月20日、世界難民の日
東京・虎ノ門の官民共創HUBで、「Mobility for Humanity設立・コックスバザール難民キャンプ訪問報告イベント」が開催された。

このイベントが掲げたキーワードは、「Mobility for Humanity──人間のための移動」。
その“移動”とは、単なる物理的な移動や、制度としての人の受け入れを意味するのではない。移動にまつわる“尊厳”の再構築であり、未来を奪われた若者たちが、自らの人生を再び描き始めるための「希望の経路(パスウェイ)」を切り拓くことを意味している。

現在、紛争や人権侵害、独裁政権のもとで故郷を追われた人の数は1億2000万人を超え、過去最大に達している。
その多くが低中所得国に留まり、約8割は長期化した避難生活の中で、進学や就労の機会さえ与えられず、未来を描くことができない環境にある。

Mobility for Humanity は、こうした若者たちと日本の地域・産業をつなぎ、就労を通じた安全な国際移動とキャリア形成の機会を提供しようとしている。
それは単なる受け入れでも、支援でもない。ともに未来を創る共創のプロジェクトであり、地域産業の担い手不足、多文化共生、そしてグローバルな人道課題を接続する、新たな社会モデルの提案である。

イベント当日は、設立報告とともに、バングラデシュ・コックスバザール難民キャンプの視察報告が行われた。現地の声とともに、今後のパイロット事業が共有され、「支援」ではなく「関係性の再設計」としてのビジョンが立ち上がっていった。

続くグループディスカッション「よりよい受け入れへ向けての作戦会議」では、多様なテーマに分かれ、産官学民を超えた議論が展開された。
私が参加した「多国間連携/産官学民連携での難民対応」のセッションでは、ファンディングを含めて、むしろ地方から仕掛けるほうが成功事例を生みやすいのではないかという流れが共有された。制度の硬直よりも、地域の柔軟性と即応性が、“受け入れる構え”を形にしていく起点となり得る。日本の周縁から、世界の中心へと新しいモデルが波及する可能性を感じた。

また、この日は個人的にも嬉しい再会があった。
昨年のみちのくイノキャンでメンタリングを担当した田中かのんさんと久しぶりに再会し、じっくりと話すことができた。彼女には、9月に予定されている次回イノキャンへの参加を勧めた。前日までタイにいるとのことだったが、彼女であれば全く問題はない。むしろ、ある意味“強制的”にでも、彼女にはあの場にいてほしい。 彼女のような存在こそが、空気を変え、場を動かす原動力となる。

惜しむらくは、イベントの進行が押したため、楽しみにしていた懇親会には参加できなかったこと。北ベトナム料理「イエローバンブー」のケータリングが準備されていたそうで、交流の場が失われたのは残念だったが、それ以上に、この夜に得た“問い”と“構え”は、心の中で確かに響いている。

Mobility for Humanity
それは単に移動の自由を語る言葉ではない。人間として生きるための選択肢を、誰にでもひらく社会へ──その問いから生まれた挑戦である。
今日という日は、その挑戦の第一歩に立ち会えた日として、きっとこれから先も思い返すことになるだろう。

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