──そんな飛行日誌のような対話が、今ここで交わされた。
はじめに、我々は「水平飛行」から話を始めた。コロナ前の市場は、空は晴れていて風の動きもおおむね予測できた。しかし、パンデミックという乱気流にさらされ、市場の地層はひっくり返り、小さな波紋が至るところに広がるようになった。大きな波を捉えようとしても、その先に何があるか見えず、かえって危険を孕む。「短期的な“波乗り”こそが、生き延びる戦略である」と語り合ったのは、その彼是の果てに見出したひとつの真理だった。
次に、我々は「キャッシュカウ」の重要性を確認した。安定的なベースロード収入は、まさに燃料タンクの残量を示すゲージだ。どれほど高度を上げようとしても、燃料切れでは機体は墜落するしかない。だからこそ、まず12ヶ月分の固定費を確保し、稼いだ収入の一部を次の実験に注ぎ込むリズムが求められる。ここで「真面目すぎる者、不真面目者の如し」の潔さを持つことが功を奏す。
一方で、「低高度で安定飛行を保つ」ことの妙味も学んだ。急上昇するよりも、安定的に進みながら気流を見極め、小刻みに高度を上げる──これを「ローリングテイクオフ」と呼ぶ。滑走路でタッチ&ゴーを繰り返し、小さな揚力を感じるたびにピッチを引き上げる。市場実験も同様に、2週間のPoCサイクルで成功率80%以上を維持しながら、「ここだけは譲れない」という顧客の声を集め、次の一手を固める。
さらに、一人パイロット体制のメリットとリスクにも触れた。機動力とコスト効率は飛び抜けている反面、視界の限界とメンタル管理の難しさを抱える。だからこそ、「非常勤副操縦士」として、技術・ビジネス・知財のアドバイザーを月に一度招き、悪天候シナリオをシミュレーションする外部フィードバックループが欠かせない。
最後に、全てをまとめるチェックリストを起こした。
- 2週間PoCで80%以上の成功率
- 顧客からの肯定率5件以上
- キャッシュランウェイ12ヶ月以上
- 市場シグナルの一貫性3ヶ月連続
- 顧問の離陸GOサイン
これら五つの“気候良好条件”が揃った瞬間こそ、機体を大きくピッチアップし、安定高度から上昇軌道へと離陸をかけるタイミングだ。
Deep Tech系スタートアップの立ち上げ──それはまるで未知の気流を飛ぶシングルパイロットのソロフライト。VFRで目視できる範囲を確実に抑え、小さな実験を繰り返しながら、燃料(キャッシュ)と相談して徐々に高度を上げていく。しかし、ただ真面目に飛ぶだけでは足りない。競合の動きを見逃さず、自らを追い込みすぎず、ひねくれた視点で「ここだけは譲れない」顧客価値を掘り下げる──それこそが“ひねくれ会長流”のテイクオフである。
読者諸君、目の前の乱気流に恐れず、まずはVFR訓練から始めてみたまえ。やがてやって来る晴れ間で、きっと新たな高みへ飛び立てるはずだ。