シリコンバレーを訪れたときに感じたのは、そこに存在する専門職たちの「色付け」の鮮やかさだった。Immigration Lawyer、CPA、Corporate Lawyer、IP Lawyer──それぞれの役割が明確で、起業家は必要な時に、必要な専門家と自然につながることができる。CPAは単なる会計士ではなく、起業家とともに事業をデザインし、投資家や弁護士との接続点となる。そこには「エコシステムの中心で専門職が育ち、輝く」構造があった。
一方、日本の現状はどうか。行政書士や弁護士、会計士といった資格者は多数いる。しかし彼らの専門性は「色」が薄く、起業家から見れば誰に頼ればよいのかが見えにくい。結果として、スタートアップ支援においても制度や手続きを処理する人はいても、成長をデザインする伴走者は少ない。
この差は、単に知識や能力の問題ではない。むしろ「育った環境」への依存が大きいのではないか。ある住宅設計士が、職業訓練校時代に貧困家庭の同級生と対話し、彼が豊かな生活を見たことがないために、その水準の設計が想像できない、と語っていた。これは専門職すべてに通じる話だ。CPAや弁護士もまた、触れたことのない成長プロセスをデザインすることはできない。
だからこそ、エコシステムが育むべきは「起業家」だけではない。会計士、弁護士、弁理士、行政書士、投資家、大学研究者、行政担当者、さらには市民まで──多様なステークホルダーが同時に成長できる場が必要である。エコシステムとは単なる資金や制度の仕組みではなく、「共進化の場」そのものなのだ。
そのためには「視座の高い場」が不可欠だ。個々の利害や年度単位の補助金に縛られず、地域の資源を俯瞰的に整理し、新しい意味を与えられる人材──いわば「エコシステムデザイナー」が求められている。しかし現状、日本にはそのような整理役はまだ少ない。資源は点在し、眠ったままである。
だが、逆に言えばどんな地域でも、資源をきちんと整理し有効活用すれば、シリコンバレーのような「世界に唯一の場」を生み出すことができる。山梨の自然や半導体、沖縄の海洋研究と多文化、台東区の伝統工芸と金融人材──その土地にしかない資源を組み合わせることで、新しいエコシステムが立ち上がる。
日本に今求められているのは、起業家だけではなく支援者をも育て、あらゆるステークホルダーが共進化できる「視座高き場」をつくることだ。その場こそが、世界に唯一と呼べる日本発のエコシステムとなるだろう。