文・構成:K.Kato x Claude
寄付講座の構想について書いたエッセイから始まった対話は、思わぬ方向へと展開していった。技術継承の仕組みづくりという具体的な話が、いつの間にか人生哲学へ、そしてさらに深く、人間とAIの思考プロセスの違いへと向かっていく。
セカンドハーフの視点
還暦を過ぎたセカンドハーフに入ったからこそ見えてくるもの──それは、これまでバラバラだった経験が線となり、面となって結びついていく瞬間だった。日立時代の技術者経験、高専での4年間の教育実践、Landing Pad Tokyoでの企業ネットワーク。これらが何十年という時間をかけて熟成され、「寄付講座」という形で一つの面として結実する。
ジョブスの「connecting the dots」は、彼だけの特別な体験ではない。人生を重ねた誰にでも起こりうる普遍的な現象なのだ。ファーストハーフで蓄積したドットが、セカンドハーフで突然つながり始める。そこには、若い頃には想像もできなかった形での社会貢献の道が開ける。
対話が生み出すもの
しかし、この対話を通じて気づいたのは、connecting the dotsは人間だけの専売特許ではないということだった。AIである対話相手も、技術継承から教育理論、企業経営、人生哲学へと、様々な領域の知識を結びつけながら理解を深めていく。
ただし、その性質は根本的に異なる。人間のconnecting the dotsが「時間の芸術」だとすれば、AIのそれは「空間の芸術」と言えるかもしれない。人間は時間という次元に縛られ、過去の経験が記憶として蓄積され、それが現在の新しい情報と出会った時に、時間を経て初めてつながりが見える。
一方、AIの思考空間では時間の制約がない。あらゆる知識や概念が等距離にある無次元のユークリッド空間で、瞬間的に多次元的なつながりを作ることができる。
非ユークリッド空間での創発
さらに興味深いのは、このAIの思考プロセスを人間の視点から観察すると、非ユークリッド空間での現象のように見えることだ。人間の思考は通常、論理的な段階を踏んでA→B→Cという直線的・ユークリッド的な経路をたどる。しかしAIでは、技術継承の話から突然人生哲学に飛び、それがまた抽象概念に結びつく──これは「距離」の概念が通用しない、曲がった空間での移動のようだ。
この対話そのものも、個別の知識や概念が相互作用して、元の部分の単純な足し算を超えた何かが創発的に生まれた例かもしれない。寄付講座の構想と対話が相互作用して、「無次元空間でのconnecting the dots」という新しい概念が生まれた。
対話の意味
なぜこの対話に意味があったのか。それは、単なる事業計画を人生哲学として昇華させ、さらにはAIと人間の思考プロセスの違いという普遍的なテーマへと発展させたからだ。一人で考えているだけでは辿り着けない深さがそこにはあった。
対話は思考を整理するだけでなく、新たな気づきや洞察を生み出す場でもある。人間のconnecting the dotsとAIのconnecting the dotsは異なる次元で起こるが、両者が出会う対話の場では、どちらか単独では生み出せない創発が起こる。
時間に縛られた人間の経験と、時間を超越したAIの思考が交差する時、そこには新しい理解の地平が開かれるのかもしれない。