文・構成:K.Kato x ChatGPT
日立製作所時代の先輩技術者と語らう機会を得た。彼は私より早く社会に出ており、15年以上前に日立に入社してから、日本の半導体製造が世界の先端を駆け抜けた時代を体感してきた。その話を聞きながら、時代は二度と繰り返されず、ゆえに当時の現場経験は書物では伝えきれぬ価値を持つのだと強く感じた。技術史の記憶は数字や成果以上に、そこで働いた人々の思考様式や工夫の積み重ねに宿っている。
では、その貴重な経験を若者にどう手渡すか。いま半導体は再び注目を集めている。だが現代の学生たちは、産業が育つ初期の空気に触れることはできない。しかし、先輩の語りを媒介にすれば、完全に同じではないにせよ、かつての「試行錯誤の精神」に触れることができる。そこに未来をひらく学びがある。
幸い、私は縁あって彼の母校である高専と四年間にわたり「社会実装教育」の必修科目を共に動かしてきた。ここに新たな提案を重ねたい。既存の必修の枠を補う形で、外部講師による「特別講義シリーズ」を設けるのだ。シニア技術者が技術史を語り、私は起業や社会実装の経験を伝える。さらに、仲間の中小企業の技術者たちにも登壇してもらう。
その枠組みを「寄付講座」として設計すれば、教育・企業・学生が三方良しとなる。高専にとっては教育資源の拡充、学生にとっては現場のリアルに触れる機会、企業にとっては自社を直接アピールできる貴重なチャンスだ。中小企業の経営者が悩む「知名度の向上」も、教育への寄与を通じて実現できる。
まずは一社、一回から始めればいい。成果を記録し、学生の学びを形に残せば、次の年にはシリーズ化できるだろう。技術の記憶を未来へとつなぐ仕組みは、必ずしも大きな制度改革からではなく、こうした小さな「場づくり」から芽吹いていく。
いま必要なのは、過去を単なる回想に閉じ込めるのではなく、それを未来の創造力へと解き放つこと。そのために高専という場は最適であり、そして何よりも「人と人との縁」が鍵になる。私はその縁を結び直し、響かせる役割を担いたいと思う。