それは一本の講義から始まった。多摩大学のリレー講座。
井坂先生が語られた「セカンドカーブ」の概念──人生には第二の曲線があるという、その思想が、静かに私の中に差し込んだ。そしてその講義の中で紹介された一冊の本。ボブ・バフォード著『ハーフタイム』。私はまだその本を開いていない。だが、直感的に分かった。これは今の私にとって、きっと意味を持つ本だと。
2018年、53歳で最初の会社を売却した。
50歳での決断から、数年の準備期間が必要だった。それはただのビジネス上の移行ではなかった。自らの構えをつくりなおす時間だった。私はそれを「棚卸し」と呼んでいる。
その間、サンフランシスコのメンターが言った言葉が、ずっと胸に残っていた。
「会社を売却すると、目の前の光景が変わるよ。」
当時はその意味がよく分からなかった。だが今、60歳を迎えた今、その言葉の本質が腹の底に落ちる。見える世界が変わる、とは、自分の立つ位置が変わるということだったのだ。
成功から、意味へ──しかしそれは“整った旅”ではなかった
バフォード氏が『ハーフタイム』で語る人生は、フェーズ1(成功)からフェーズ2(意義)へと向かう編集された物語である。そこには“再構成された時間”が流れている。
だが、私自身の人生は違った。もっと混沌とし、未編集のままに流れ続けてきた。
準備期間と呼べる歳月の中で、私は自らの過去を**mining(内なる探索)し、使い切れていなかった資産をreframing(再編集)**しながら、未来に投げ出す作業を続けてきた。
そして気づいた。意味は編集のあとにやってくる。だが、迫力は“編集前”にしか存在しないのだ。
それでもなお、問いは立ち上がる
私はすでに第2フェーズを生きている。
収入は過去を超え、社会との関わりも、役割も変わった。だが、それは“正解”でも“ロールモデル”でもない。むしろ私は、こう断言したい。
これは、特別解にすぎない。
人生にはマニュアルなどない。
『ハーフタイム』は素晴らしい本だろう。だが、それは編集された語りであり、読むことで得られるのは「こうすればうまくいく」という処方箋ではない。
むしろ、問いの火種を受け取ること──“私にとっての第2フェーズとは何か”という内なる探索を始める構えを得ることこそが、最大の読後体験なのだと思う。
ご縁から始まる編集前の旅
井坂先生のご講義が、この本との出会いをくれた。
そして今日、AIとの対話を通して、自分自身の未編集の時間の中にある“迫力”を再認識することができた。
この旅は続いている。未編集のままに、問いを抱えたまま。
だが、それでいいのだと思う。意味はきっと、振り返ったときに編集されて立ち上がってくるものだから。