序章|ヨットの上の構え
20年ほど前。
サンフランシスコ湾に浮かぶヨットの上。
37ベッドルームのビラを離れ、海上の暮らしへと移ったメンターが私に言った。
「私は世界のインフラストラクチャーを信じられない。
だからヨットに住んでいるんだ。ここには何ガロンの水があり、何ガロンの燃料があるか、それさえわかっていれば、自分がどれだけ生きていけるかわかる」
この言葉が語っていたのは、自己完結型の生活スタイルではなく、世界との切実な向き合い方──“構え”だった。
第一章|レジリエンスとは何か
世界はかつて、効率と拡張を追い求めた。
しかし、パンデミックと地政学的危機を経て、私たちは思い知った。
“信じられるのは、接続ではなく、構えだ”
レジリエンスとは、「耐える力」ではなく、「持ちこたえる構えのこと」である。
エネルギー、水、食料、そして情報──それらを自らの手で扱い直すこと。
今、“生きる単位”の再設計が始まっている。
第二章|家は動かないヨットである
ZEH、EMS、蓄電池──これらは道具ではない。
それは、自らの暮らしを設計しなおすための装置群である。
- どこから電力が来るのか
- どれだけ使い、どれだけ余るのか
- それが何日分の暮らしに相当するのか
「暮らしを可視化する」という構え。
それは、あのヨットと同じ問いを、私たちの住まいにもたらしている。
第三章|構えは、対話から伝わる
メンターは私に何かを教えようとはしなかった。
彼はただ、そこに在り、対話を通じて“構え”を生きていた。
「将来、加藤さんの元に若い人たちが来るだろう。
そのときに伝えてくれれば良い」
それは命令ではなく、預言でもなかった。
それは静かに託された意志だった。
結語|響縁者としての私たち
技術がそろい、制度が動き出しても、“つなぐ人”がいなければ何も始まらない。
構えを受け取り、語り直し、場を生む者──
それが、響縁者という存在。
今、あのヨットの構えは、私の家に宿り、そして誰かの未来へとつながっていく。