文・構成:K.Kato × ChatGPT
「波風は立てない方がいい」。
そう語る人の方が多いのが、この国の現場のリアリティだ。特に行政や大学との共催でイベントを組むとなると、なおさらその傾向は強くなる。場を壊さず、軋轢を生まず、誰も傷つけない。それは一見、配慮ある態度のように見えるが、同時に“何も起きない場”を生み出してしまう危険性をはらんでいる。
8月に開催されるMt.Fujiイノベーションサロンのテーマは「AIの実活用」である。
当初は、山梨大学の先生による講演を検討していた。AIに関する基礎的な知識を学ぶ機会は、一定の意義があり、場を穏やかに運ぶ選択肢でもある。だが、講演をオンラインで拝聴した際に、ふと感じたことがあった。このままでは、理解は深まっても、次の一歩につながる動きは生まれにくいのではないか──。
ただ理解するだけの「安心できる場」では、未来は立ち上がらない。
そこで私は、戸田さんに提案した。スタートアップ2社を招き、現場での実践や課題をぶつけ合う構成にしたい、と。確かにそれは、ある意味で“波風”を起こすかもしれない。大学や県の関係者にとっては、予測不能な展開に不安もあるだろう。だが、そのリスクを取らなければ、「場の熱」は生まれない。
そのとき、戸田さんが放ったひとことが、すべてを肯定してくれた。
「波風を立てるのがエンジンですから、やりましょう」
この言葉には、エンジンという場の本質が凝縮されている。
予定調和を破る“狂気”こそが、新たな構えを生み出すのだ。
エンジンは、もともと「正解を伝える場」ではない。むしろ「問いを立ち上げ、火を点ける場」だ。そこに必要なのは、予定通りに収まる進行でも、聞き心地のよい話でもない。混ざり合い、衝突し、場がうねることによって生まれる熱と響き──それこそが、人を動かし、未来を立ち上げる。
今、私たちに求められているのは、リスクを避けて滑らかに終える“上手なイベント”ではない。
むしろ、場が揺れることにこそ価値を見出す“狂気の構え”である。
エンジンは、その波風の中から、未来を創り出すための場である。
そして私たちは、そのうねりの中でこそ、新たな出会いと発火を仕掛けていけるのだ。