好奇心というエネルギー源──年齢を超える技術者の生き方

すでに84歳になる増田さんと、月に一度のオンライン打ち合わせを行った。
その数日後、展示会でも顔を合わせることができたのだが、変わらず背筋が伸び、目が澄んでいる。周囲の熱量に引けを取ることなく、むしろ、その場の「空気」を引き締めているような存在感すらあった。

思えば、増田さんは現役時代、国内の大手化学材料メーカーで、当時の最先端であった樹脂フィルムへの金属薄膜形成技術の開発に従事していた。その後も、定年を迎えてなお、国内のメッキメーカーで技術アドバイザーとして活動を続け、業界の最前線と関わり続けてきた。そして昨年、契約が一区切りついた今も、完全に立ち止まることはなく、展示会の場に自ら足を運んでいる。

ここで興味深いのは、「肩書きがなくなったあともなお、技術者としての空気感を保っている」という事実だ。
それは、単に豊富な経験を持っているから、というだけでは説明がつかない。展示会の出展者が、名刺の肩書ではなく、「この人は何かを持っている」と直感的に感じる“雰囲気”。それが、増田さんのまとっている**技術者としての「構え」**なのだろう。

私は、打ち合わせの中でも時折、年齢というものを忘れる瞬間がある。
それは、増田さんの語り口が軽やかだからでも、知識が豊富だからでもない。
技術の変化を面白がり、分からないことに目を輝かせ、「これはどうなっているのかね」と問いを発する──
その好奇心のエネルギーが、場を動かし、人を惹きつけているのだ。

思えば、技術者の本質とは何か。それは、“知っていること”の量ではなく、知ろうとする姿勢の持続にこそあるのではないか。
その意味で、増田さんは今もなお、まぎれもない「技術者」である。


私自身も、動ける70歳、80歳でありたいと思う。
だがそれは、身体的な健康を意味するだけではない。次世代とともに問いを共有できる構えを持ち続けること。
そして、自らの中の好奇心を絶やさずに灯し続けること──それこそが、年齢を超える技術者の生き方なのだと、増田さんの背中が教えてくれている。

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