再接続としてのものづくり──手仕事の国の新しい創造圏

今日の対話を通じて、私は一つのことを鮮明に理解した。日本が未来の産業構造において再び存在感を発揮できるかどうかは、決してTSMC型の巨大ファウンドリーを持てるかどうかにはかかっていない。EUVの台数でも、クリーンルームの規模でも、資本の量でも競ってはならない。そうした文法はすでに台湾と中国が支配しており、その延長で日本が勝負に臨めば、結果は明らかだ。

では、日本の本当の資産とは何か。それは「手仕事」である。職人たちが身体に沁み込ませてきた微妙な手さばき、目に見えない揺らぎを読み取る感覚、道具と対話するようにして生まれる調整の力。これらは単なる技術ではなく、言葉にもデータにも置き換えられない“身体知”であり、日本が長い時間をかけて育んできた文化そのものだ。この暗黙知は、形式知に変換した瞬間に価値を失い、他国に模倣されてしまう。ゆえに、それを「デジタル化すべきではない」という直観こそが、未来を守るための第一条件になる。

しかし、守るだけでは不十分だ。日本にはすでに数十万の工場、中小企業、町工場が存在し、それぞれが独自の技と感覚を持つ“知の断片”となって散りばめられている。問題は、それらがいま十分につながっておらず、個々が点のまま孤立していることにある。日本の未来にとって必要なのは、新たな巨大工場を建てることではなく、この膨大な点を再びつなぎ直すことである。

私は、この「再接続(リコネクト)」こそが、これからの日本が世界に示すべき新しい文明の形だと考えている。既存の現場どうしが響き合い、暗黙知が暗黙知のまま伝わり、互いの手仕事が新しい創発を生むような生態系。それは、完成された技術を誇示するものではなく、未完のまま、開かれたまま、ゆるやかに共鳴する世界である。

この国の未来を支えるのは、“新たな工場”ではなく、“つなぎ直された現場”である。そこにこそ、AIに奪われず、他国に模倣されず、しかし世界を魅了しうる日本独自の創造圏が立ち上がる。今日の議論は、その方向性を確かに指し示している。

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