「詐欺師という言葉の響きが、私には美しく聞こえるのです」
そんな言葉を静かに語った人物がいた。
彼は大学時代から野鳥と向き合い続け、自然に耳を澄ませてきた人だ。鳥の声を聞き分けるという営みは、単なる趣味ではない。人の言葉の“裏にある響き”を聞き取る耳が、そこで育まれている。
ある夜、対話のなかで「大きな夢を語る人間は、ときに詐欺師に見える」という話題が出た。
そのとき、彼はふと微笑んでこう言った。
「“詐欺師”という音を聞くと、私は“サギ”という鳥を思い出すんです。
優雅で、静かで、佇まいに品がある。
私には、それがむしろ素晴らしい響きに感じられるんですよ」
その瞬間、私は悟った。夢の真贋を見極めるのは、論理ではなく“響き”なのだと。
彼の専門は、もともとは機械工学だった。
しかし今、彼の主導する研究の現場には、「環境」と「エネルギー」という、一見異なる領域を名に掲げたセンターが存在する。
環境=感性や人文的世界と、エネルギー=定量化された工学的対象。
その二つを融合させるという構想は、彼自身の歩みと深くつながっている。
夢を追うには、数字や技術だけでは足りない。
一方で、感性だけでも前には進まない。
そのはざまを丁寧に歩きながら、場の温度と密度を上げていける人──
彼の存在は、まさにその象徴だった。
誰かの語る夢が、本物かどうか。
それは、言葉の意味ではなく、その響きに宿る品位によって見えてくる。
「サギという響きが、美しく聞こえる」という彼の感性こそ、
昨日あの場に満ちていた“共鳴”の源泉だったのだろう。