OIST訪問記──イノベーションとは誰が駆動するのか

2025年7月1日、沖縄科学技術大学院大学(OIST)を訪問し、OIST Innovation Network(INO)を担う担当者と対面での打ち合わせを行った。
主たるテーマは、「OISTとは何か、そしてOISTの強みとは何か」。あらためて本質に立ち返るような、密度のある対話となった。

OISTは、国内の大学の中でも極めてユニークな存在だ。
英語による一貫教育と、基礎科学に特化した研究環境。世界各国から集まる研究者たちと、地域に根ざした大学運営。最近では「OIST Innovation Network(INO)」という産学共創の仕組みにも注目が集まり、参加企業も増えてきている。

これは歓迎すべき流れだ。一方で、OISTの研究者の多くが純粋基礎研究に取り組んでおり、企業との接点を生むこと自体が簡単ではない。その中間を担うのが、今回お会いしたInnovationチームの方々である。

対話の中で、企業が求める課題にOISTが応じる形で共同研究を組む案が共有された。それ自体は自然な流れだが、私の中ではむしろ逆の構造が頭に浮かんだ。

OISTには、いわゆる工学的応用や短期の実装に縛られない、人文的とも言える深い探究が息づいている。脳科学、神経回路、エネルギー、自然環境、量子生物学──そのどれもが、社会や地球全体に関わる根源的な問いと向き合っている。私はここに、OIST発の「問い」こそが、イノベーションの起点になる可能性を感じている。

ちょうど先週末、山梨県立大学で実施した集中講義「アイデア共創実践」で、高校生・大学生と共に地域課題に向き合う機会があった。彼らは驚くほど率直に「環境問題」「地域の孤立」「国際社会との接続」といったテーマを語っていた。こうした若い世代の関心と、OISTの知の構造がつながったとき、**技術移転とは別の意味での“共創”**が立ち上がるのではないか。

それは、短期的には収益に直結しないかもしれない。しかし、社会の構造を編み直すような問いは、そうした場からしか生まれない。むしろ、そうした“回収されない問い”を支えることが、大学という存在の役割なのではないか。

OISTは、そのような実験ができる稀有な場である。
INOが単なるマッチングの場ではなく、企業や行政が「OISTからの問い」に応答する新たな構造になっていくとき、イノベーションの意味そのものが更新されるだろう。

そうした場を、どう立ち上げ、どう持続させるか──
今はまだ模索の途上だが、その原点を思い出させてくれる訪問だった。

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