「一般解が存在しない以上、痛みを伴いながらも前に進むしかない」
私はこの言葉を、Deep Tech領域に挑む起業家たちの姿を見つめながら、何度も胸の内で繰り返してきた。彼らが向き合うのは、未踏の技術課題だけではない。資金調達、市場との接続、組織づくり、そして社会的な正当性──それらすべてを背負いながら、日々、選択と決断を重ねている。
大熊ダイヤモンドデバイスのようなスタートアップに出会うたび、私は思う。研究と産業の間には、想像以上に深くて広い谷がある。とりわけ、大学や産総研といった研究機関で育まれた技術を社会実装へと橋渡しするプロセスには、幾重にも重なる壁がある。
技術のコアは力強い。北海道大学・金子純一先生のもとで培われた耐環境デバイス研究、産総研の梅沢仁氏によるデバイス化への執念。これらは日本におけるダイヤモンド半導体研究の最先端を形づくっている。
そして、ここには私自身の原点とも言える出会いが重なる。河原田洋先生──私が学生だった頃、学科の助手を務めておられ、大阪大学に移られた後もご指導をいただいた。後に早稲田大学へ戻られた先生は、ダイヤモンド半導体研究の第一人者として数々の業績を残し、多くの優れた研究者を育てられた。その中には、現在大熊ダイヤモンドで技術を支える梅沢氏も含まれている。
私は、河原田先生の「技術は必ず社会に実装すべきだ」という強い哲学を、身をもって教わった。そしてその精神は、技術と経営、研究と社会のあいだで模索を続ける現代の起業家たちにも、確かに受け継がれていると感じている。
Deep Techスタートアップの経営者たちは、経験が乏しいことを恥じる必要はない。誰にも答えのない領域を歩くのだから。必要なのは、問いを立て直し、時に構えを柔らかく修正しながら、それでも歩を進める「しなやかな剛さ」だ。
運に賭けるしかない──そう感じる場面は多い。だが、私はその「運」の正体を少しだけ知っている。運とは、偶然の産物ではなく、愚直に動き続ける者のもとにしか訪れない偶発的な必然だ。多くの起業家たちがその証明である。
私は、そうした挑戦の過程を応援者として、静かに見守っていたい。ときに問いを投げかけ、ときに助言を求められたら応える。伴走者としてではなく、必要なときにそっと力を添える存在として、技術と社会をつなぐこの営みに関わり続けていけたらと願っている。
Deep Techの世界において、失敗は前提だ。むしろ、痛みを伴わずに進める道など存在しない。だが、その痛みのなかでこそ、本物の構えが育ち、やがて社会を変える力へと発酵していく。
私はその過程を信じている。そして、そこで生まれる「運」を、ともに祈るような気持ちで見つめている。