2026年4月3日。ホルムズ海峡が詰まって、今日で34日目になる。
人々はこれを「危機」と呼ぶ。株価が下がり、エネルギー価格が上がり、湾岸諸国へのミサイルが飛び、海運が迂回を余儀なくされている。メディアは毎日「いつ終わるか」を問い続けている。だが私は、その問いの立て方そのものに違和感を覚えている。
終わらない、のではない。形を変えて続いている、のだ。
COVID-19を思い出す。あのとき世界は「いつ収束するか」を問い続けた。結果として、ウイルスは変異し、エンデミックになり、「終わった」という感覚のないまま日常に溶け込んだ。今回のホルムズ封鎖も、いずれ別の形に変容するだろう。しかし「元に戻る」ことはない。戻るべき「元」がすでに存在しないからだ。
二つの事象の本質的な違いは、出口の構造にある。COVID-19は生物学的プロセスに出口が内在していた。ウイルスは変異し、免疫は積まれ、時間が解決に向かって働いた。今回は違う。誰かが「止める」と政治的に決断しない限り、連鎖は止まらない。そしてその「誰か」が今、判断不能または判断拒否の状態にある。
しかし、ここで立ち止まる必要がある。
そもそも「平穏」とは何か。人々が平穏を求めるのは、平穏が常態だという前提があるからだ。だが物理的に考えれば、熱平衡は死の状態である。生きているシステムは常に非平衡であり、常に揺らいでいる。揺らぎこそが常態であり、平穏はその一時的な位相に過ぎない。
問題は「どう止めるか」ではなく、「揺らぎの中でどう構えるか」だ。
この問いに答えるように、今日ひとつの出来事があった。5月に予定していたインドからのCohortが来日キャンセルとなり、オンライン開催に切り替わったのだ。一瞬、これを「損失」として見る視点が頭をよぎった。だがすぐに気づいた。「東京に来る人のためのLanding Pad」という前提が、その瞬間に静かに溶けたのだと。
地理的制約が消えた。日本全国が同時に接続点になった。北海道の宇宙関連企業も、九州の製造業クラスターも、沖縄のOISTエコシステムも、同じCohortに接続できる。東京フィルターなしに。
さらに、仲間が中央ヨーロッパ——ポーランドを中心とするThree Seas Initiative——で動いている。ニューデリー、日本列島、バルトからアドリア海までの回廊。この三角形が同じ揺らぎの中で引き寄せられている。Three Seas地域は地政学的に見ると、ロシア・中国・中東のいずれにも依存しない第三の回廊を模索している地域だ。ホルムズ封鎖で既存のルートが信頼を失いつつある今、この地域の戦略的重要性が静かに上がっている。
これは偶然ではない。揺らぎが固定されていた前提を一斉に溶かし、その溶けた隙間に新しい接続が自然に入り込んでいる。
私のメンターは55歳でヨットに移り住んだ。理由を問うと、「インフラストラクチャーが信じられない」と言った。ジャストインタイムで最適化された世界は、一点が詰まるだけで全体が止まる。ホルムズ海峡という一点が今、それを証明している。メンターが選んだのは、固定されたインフラに依存しない生き方——揺らぎに乗れる構造を自分の中に持つことだった。
焚き火の番人は薪を集めない。ただ火の傍にいて、場を整える。薪は自然と集まってくる。
今、揺らぎが人を動かし、人が場に向かってきている。インドのキャンセルが日本全国を開いた。地政学的な緊張が中央ヨーロッパの仲間を動かした。34日間の封鎖が、新しい接続の地図を描き直している。
危機の中にワクワクする、というのは不謹慎に聞こえるかもしれない。しかし生態系は撹乱によって更新される。固定された前提が壊れるとき、新しい構造が入ってくる余地が生まれる。COVID後にリモートワーク、分散型サプライチェーン、mRNAワクチン技術の民主化が生まれたように。
世界が動き出している。それを感じている。

