異物をどう制御するか。これは半導体でも基板でも、歩留りを決める根源的なテーマである。
30年前、サムスンのラインを見学したとき、彼らは工程の一つひとつの後に必ず洗浄を入れていた。
日立時代の私の経験では、数工程ごとに洗浄を挟むのが常識だった。明らかにコストアップであっても、サムスンは「異物を持ち越さない」思想に徹し、歩留りを守ったのである。
一方、現在の樹脂基板製造ラインは、シリコンの前工程とも、かつてのプリント基板工程とも違う現実に直面している。
薄物であり、大判であり、しかも異物が一度食い込めば後から救えない。
だからこそ、「完全にゼロにする」ウェハー流でも、「ある程度許容する」従来の基板流でもない、新しい組み合わせの発想が求められている。
その起点はシンプルだ。まずは異物を“見る”こと。
現場には十分な観察技術さえ備わっていないことが多い。暗視野ライトやテープリフト、簡易粒子カウンタといった道具を揃え、全員が日常の中で「異常を見つける目」を持つこと。これは高度な自動検査システムではなく、人の目と感覚を活かした「人海戦術」から始まる。
人海戦術──それは古いやり方に見えるかもしれない。だが実際には、日本の製造ラインの強みそのものだ。
全員がセンサーとなり、改善の主体となる。見つけた異物を報告することが責任ではなく、貢献となる文化。
これによって異物対策は「個人の勘」ではなく「組織の知恵」として積み上がっていく。
ここで大きな意味を持つのが、シニア層の経験知である。
彼らは自らの体を使って歩留り改善に取り組み、異物との格闘を日々繰り返してきた世代だ。
データがない状況でも、匂いや音、表面のわずかな光り方で異常を察知できる。
AIや自動化が頼りとするビッグデータが揃っていない領域でこそ、この身体知が力を発揮する。
Rapidusのようなフルオートの先端半導体ラインと対照的に、樹脂基板ラインは「人が最後のセンサーである」ことを前提に進化していくだろう。
そこでは、30年前から続く「古いやり方」が、新しい製造革新の要になる。
結局のところ、異物対策は技術論だけでは完結しない。
人の目と直感を信じ、全員で異物を見つけ、改善文化をつなぐ。
そこにこそ、これからの日本の現場力が生きるのではないだろうか。

